風とは、こんなにも表情を変えるものだっただろうか。
年中太陽が照り付ける我が国では、殺人的な暑さを纏って吹き付けてくる風。
しかし今、全身を舐める様に横切って行くこの風は………暑さなど、微塵も無い。
殺人的なものには変わりないが。
……火傷ではなく、ここでは凍傷。
真っ白な雪を含んでビュウビュウと空を自由気ままに泳いで行く風は、こちらの苦労などつゆ知らず、無慈悲にもその勢いを更に増す。
………凍て付いた大地には、雪の白さ以外にも所々生い茂る森の深緑が見えるが…それらも全て凍ってしまっている様で、目下に見える景色はまるで硝子細工の世界だ。
………こんな荒れ果てた国にも、人が住んでいるのか。
(……………そういう点では…砂漠の国と…大して変わらないわね…)
冷た過ぎる雪風にフードを持って行かれない様に端を引き寄せ、乾燥仕切った唇を真一文字に結んだ。
「―――こんな所…用が無ければ、金輪際二度と来ないわ…」
……不機嫌な声でドールは呟き、小さく舌打ちした。
「………長、暴れないで下さいよ…」
すぐ後ろに付いていた配下の男が、苦笑混じりに言った。
………そしてドールとその男の背後に付いて来るのは………………無愛想で無口な、バリアンの兵士。
ドール達を監視するその視線には、常に殺気が絡み付いている。
……程良い緊張感だこと。
彼等を横目で一瞥しながら、ドールは鼻で笑った。


