……姿の見えないジンは、いつもなら返事は即答するのだが、何故かこの時声を詰まらせた。
ちょっと沈んだ声音で、ポツリと彼は呟く。
「………陛下は…何故あの二人を組ませたのですか…」
「適役だったからだ。………不満か?……イブはお前に押しつけようとしていたぞ…」
「………………リスト=サベスとペア……ですか……」
………彼の声音は更に不機嫌さを増した。
何故か。
「………ジン、お前…リストが嫌いなのか?それとも単に人見知りが激しいのか…?……………………………………ああ…そう言えば……………あの二人が一緒にいるのが嫌いだったな、お前は」
意地の悪い笑みを浮かべてクスクスと笑うローアンに、ジンは「…えっ」と、やや困惑気味な声を漏らした。
「………そういう、訳では…」
なんだか急にオロオロと慌て出したジンを傍目に、ローアンは不意に、厚い雲が幅を利かせた曇り空を見上げた。
雪雲しかない殺風景なキャンパスに、何か小さなものが風に乗って舞い降りて来る。
………それは小さな小さな…赤い葉。
「………噂をすれば……だな」
遥か上空に向かって手を伸ばすと、それは風に逆らって急降下し、ローアンの元にゆっくりと降りて来た。
……伸ばした細い指先にその赤色が触れるや否や……可愛らしい木の葉は一変し、小さな蜘蛛の姿となった。
手の平に収まる位の真っ赤な蜘蛛はカサカサとローアンの腕を伝い、目の前に跳んで来たかと思うと………突然、小さな破裂音を立てて跡形も無く散った。
ダイヤモンドダストの様な細かな結晶が、目前で煌めく。


