…全てを振り切る様に無言で立ち去る女王陛下の細い背中を見詰めながら、ジンはゆっくりと“闇溶け”で姿を消した。
胸中の苛立ちを抱えたまま、ローアンは果てしない銀世界へと再び歩み始める。
(………………命を投げ出す程……あの国に、忠誠を誓う価値は……無いだろうに…!)
………もう一度、散乱する背後の屍に振り返ると、横たわる彼等の胸には一枚の凍て付いた葉が乗っていた。
………ジンが置いたのだろう。
彼の故郷では、屍に葉を一枚乗せるという風習がある。
葉は、死者があの世へ渡れる様にという意味を込めた、渡船であるらしい。
………残虐な殺人術が身に染み付いているジンだが………妙な所で人間らしさが顔を出す。
ダリルに負けじ劣らず無口で無表情。
神出鬼没で、ある意味影が薄い彼。
………しかし、アレクセイと顔を合わせれば長く激しい口喧嘩が始まる……。
「………」
日々繰り広げられる、成人になったばかりの若者と苦労性の老人の口喧嘩がふと脳裏を過ぎり、ローアンは思わず苦笑を漏らした。
………………我が国は他の大国と比べて………平和と言うより、呑気だな。
「………ジン」
「―――はっ」
何故か笑みを交えて呼ばれ、ジンは内心不思議に思いつつも返事をした。
…ほんのちょっと前まで、機嫌が悪くなかっただろうか。
「………似てないと思っていたが………お前とアレクセイ、血が繋がっているだけあって……やはり似ているな」
「似ていません」


