「―――赤き国……老いぼれ陛下が居座る、バリアンの手の者…か?」
………再び切っ先を男の喉元に突き付け、ローアンは目を細めた。
唸るトゥラの生暖かい吐息とジンの冷た過ぎる殺気を前に、男は口を固く閉ざしたままだ。
「……陛下、やはりここは私が」
「くどい。ちょっと黙れお前」
僅か数十秒で痺れを切らしたらしいジンにローアンが眉をひそめた直後…。
「―――…っあ゛……」
……周囲から、低い呻き声が疎らに聞こえてきた。
振り返るとそこには………口から血を垂らす他四人の男達。
ジンのクナイで木の幹に張り付けられたまま、ぐったりと頭を垂れていた。
…………舌を噛み切ったらしい。
次々に自ら事切れていく者達を眺めていると、真正面から生暖かい水滴がローアンの頬に飛び散った。
「………」
視線を前に戻すと、瞳に映ったのはだんまりを決め込む男ではなく………ナイフで喉をかき切った、屍寸前の男の姿だった。
「………………言うくらいなら死を選ぶか………………愚か者め……」
頬に飛び散った鮮血を、ジンが脇から静かに拭ってくれた。
「………………所持している物を確かめれば、何処の者か分かるかも知れませんが…」
そう言って息絶えた男の衣服に手を掛けようとしたジンを、ローアンは無言で制した。
「……無用だ。………バリアンでなくとも、それに関連した者であることは間違ない。…………先を行くぞ…………気分が悪い…」
「………御意…」
ろくに確かめもせず、ローアンはさっさと踵を返して先を歩き出した。
トゥラはその影に素早く溶け込んだ。


