押さえ付けていた鞭が無くなると、男は重力に従ってそのまま地面に落下した。
樹木を背に、必死な形相で後退しようとした男の目の前に、ローアンの影から飛び出して来たトゥラが牙をむき出しにして詰め寄る。
…それでも男はまだ抵抗しようとしているのか、腰の剣に手を伸ばそうとする。
………が、小刻みに震えたその手の甲は、咄嗟にジンが投げた小さな刃によって貫かれた。
「ジン、クナイはしまえ…」
鮮血が溢れる手の甲を押さえて苦しそうに俯く男に歩み寄り、ローアンは腕を組んでじっと見下ろした。
「………穴だらけになりたいか、噛み殺されたいか………どちらでも良いが、どちらも嫌と言うなら………洗いざらい話してもらおうか………」
…グッと詰め寄るローアンに、男は歯を食いしばって顔を背けた。
………何も話すものか、という往生際の悪い態度だ。
「………陛下、ここはやはり私が……」
「それはいい。お前の攻め方は、祖父譲りの…半殺しの拷問レベルだからな………この男が可哀相だ」
ジンの拷問における残酷さを知っているローアンは、苦笑混じりに言った。
彼自身、自覚が無いのか………首を傾げながら、無言でパチパチと瞬きを繰り返している。
「………………賊、ではないな。………………ごろつきにしては、なかなか品の良い殺気だった……」
………スラリ、とローアンは腰から剣を抜いた。
青白い刀身が雪明かりに照らされ、男の眼前で妖しく光る。
鋭い切っ先は男の胴体へ下りていき………………白のマントの端をとらえ、捲った。
マントの下には、質の良い剣と………衣服の隙間から覗く、赤褐色の肌。


