亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


暴れ馬の様に宙を物凄い速さで飛び回る紐………細い鞭は、瞬時に浮かび上がる黒い靄の中に吸い込まれる様に消えたかと思えば、また闇の口から這い出て来る。

それはまるで、巣穴から獲物を狙う蛇。

思わず飛び退いた男を追い越し、その背後に回り込んだ鞭は男の胴に絡み付いた。


そうなれば最後、回されるヨーヨーと同じで乱暴に振り回され、立ちすくんでいた他の男に向かって思い切り投げ付けられた。

男は味方に衝突し、二人は縺れ込む様に厚い積雪の上を転がり、大木に思い切り身体を打ち付けた。

クタリと動かなくなった二人を傍目に、いつの間にか一人になってしまった男は挙動不審になりながらキョロキョロと辺りを見回す。


何処からともなく現れ、空中に消えてしまう……音も無ければ気配も何も無い、小さな剣の群れと長く黒い鞭。


奇怪な飢えた牙と舌にどうする事も出来ず、剣を構えたまま微動だに出来ない男。


そんな男を面白そうに眺めながら、ローアンはその細い指先を地面に向けた。









「………………下だ、のろまめ」







………瞬間。

男の真下から、黒い鞭が垂直に伸びて来た。




「―――っぐあ゛……!?」


強靭な鞭は男の首に巻き付き、喉元を押さえて目を白黒させる彼をそのままの勢いで持ち上げた。


凍て付いた大木の幹の高い位置に、男は叩き付けられた。
首に絡み付いた鞭は解けず、男は足場の無い、地上から5、6メートル上の幹に背を付けたままもがき続けた。




……真っ白な地面から木の幹に押さえ付けられた男の首までピンと張り詰めた細い鞭。





その歪みのない直線上を、人型の黒い靄が男に向かって走り寄って来た。