男の握る剣の切っ先がローアンに向くか否かという寸前。
―――…双方の間に、真っ黒な靄の様なものが忽然と現れた。
何も無い空間でぐらりと歪む濃い闇。
まるで別世界との入口の様な、底知れぬ黒い亀裂から…。
―――…多数の小さな白刃が、豪雨の如き勢いで真横に降り懸かってきた。
「―――!?」
短剣よりも小さく、柄の無い、刃の部分だけを使用した小型で軽量な武器。
目にも止まらぬ速さでそれらは男の肩や腕、足、マントの端に食い込み、男はそのまま背後の樹木の幹に叩き付けられた。
身体の端を縁取る様に刺さった刃。まるで虫の標本の様に、男の身体は幹に固定されてしまった。
…突然のこの事態に、他の者は一瞬動きを止めた。
辺りを見回すが、視界に移るのは銀世界を背景に佇むローアンだけで、忽然と現れたあの小さな黒煙の固まりも、いつの間にか消えていた。
そんな困惑の色を隠せない彼等を尻目に、悠然と佇むローアン。
寒さに震える細い両肩を擦りながら、欠伸を噛み殺した。
「………ほらほら、何を立ち止まっている。動いていないと標的にされるぞ」
………途端、彼女の背後から、空を切り裂く黒く細い紐の様なものが蛇行しながら飛来して来た。
ビュッ……と、それは空気を叩き、足元をはい回り、最後尾の男の足に絡み付いた。
……そしてそのまま、波打つ紐によって男の身体は上空に投げ出された。
悲鳴を上げる暇も無い。
投げ出された男は最初の犠牲者同様、何処からか飛来して来た小さな刃の群れにより、高い木の幹に標本の虫の如く張り付けられた。
―――…双方の間に、真っ黒な靄の様なものが忽然と現れた。
何も無い空間でぐらりと歪む濃い闇。
まるで別世界との入口の様な、底知れぬ黒い亀裂から…。
―――…多数の小さな白刃が、豪雨の如き勢いで真横に降り懸かってきた。
「―――!?」
短剣よりも小さく、柄の無い、刃の部分だけを使用した小型で軽量な武器。
目にも止まらぬ速さでそれらは男の肩や腕、足、マントの端に食い込み、男はそのまま背後の樹木の幹に叩き付けられた。
身体の端を縁取る様に刺さった刃。まるで虫の標本の様に、男の身体は幹に固定されてしまった。
…突然のこの事態に、他の者は一瞬動きを止めた。
辺りを見回すが、視界に移るのは銀世界を背景に佇むローアンだけで、忽然と現れたあの小さな黒煙の固まりも、いつの間にか消えていた。
そんな困惑の色を隠せない彼等を尻目に、悠然と佇むローアン。
寒さに震える細い両肩を擦りながら、欠伸を噛み殺した。
「………ほらほら、何を立ち止まっている。動いていないと標的にされるぞ」
………途端、彼女の背後から、空を切り裂く黒く細い紐の様なものが蛇行しながら飛来して来た。
ビュッ……と、それは空気を叩き、足元をはい回り、最後尾の男の足に絡み付いた。
……そしてそのまま、波打つ紐によって男の身体は上空に投げ出された。
悲鳴を上げる暇も無い。
投げ出された男は最初の犠牲者同様、何処からか飛来して来た小さな刃の群れにより、高い木の幹に標本の虫の如く張り付けられた。


