……この雪国では、どんなに隙間風を塞いでもやはり寒いものは寒く、これでは中も外もあまり変わらないな…とか思っていたが。
………贅沢は言えないもので。
純白の銀世界である外に出た今、あの無風で微かに暖かい気がしないでもなかった宿が異常に恋しい。
………黒の上質なマントの端を掴み、少しでもこの凍て付いた空気から免れるべく身体を包み込む。
「………………我が国の冬季より…やはり遥かに寒いな……」
奥歯を噛み締めて寒さに耐えながら、深い積雪を歩いて行く。
口から漏れ出る白い吐息が何度も視界を覆い、あっという間に消えていった。
「―――……陛下、無理をなさらずに…」
自分以外人っ子一人見当たらない筈の寂しい空間に……低い青年の、物静かな声が何処からともなく聞こえてきた。
その不可思議な声に、陛下は……ローアンは、苦笑で返した。
「………無用な気遣いだ。………大自然での野営には、兵士だった頃の現役時代に、嫌という程慣れているつもりだ…」
「………………左様で…」
………ローアンだけしかいないこの場で、姿無き者との会話が成り立っている。
……端から見れば奇妙な独り言にしか見えない光景だが、そんなのお構いなしにローアンは話続けた。
「………それはもう過酷な訓練だった。……冬季になると、朝昼晩…ずっと“闇溶け”の状態で、飢えた獣だらけの森に籠るんだ。………それが約二ヶ月……少しでも気を抜くと、“闇溶け”が解けて獣の餌食になる。………まぁ、慣れれば朝飯前なのだがな」


