この雪国では、民の殆どが白い衣服を着ている。
靴も、手袋も、防寒着も、勿論マントも。
何故白であるかというと、それはやはり身を守るため。
獣が目を光らせて我が物顔で歩き回る真っ白な雪の中に立っていても、同色の衣服を纏っていればなかなか気付かれない。
夜になると今度は白が目立つため、裏生地は黒である事が多い。
生活拠点が外しかない狩人なんぞは皆そうだ。
だから………裏生地とか関係無く、全身黒で覆われた人間は……何処にいても、目立つ。
そう。
………目立っている。
見た瞬間、ああ…余所者だな、と民は嫌な顔をするのだ。
………そんな余所者が、小さな街の廃れた食材屋で静かに物色しているのを遠巻きに眺めながら、数人の商人がひそひそと会話し合っていた。
「……………見ろよ…あの全身黒ずくめの奴……昨日だったか……急に現れたんだよ…」
何かの獣の骨から造られた歪なパイプを口に咥え、鼻から煙を吐き出した。
「………小柄だな。………女か…ガキの一人旅か…?」
「…女だよ。………それもおかしな容姿をした…上玉さ」
昨夜マントを外して宿に入って行くのを見た、と商人は言う。
渦中の人物を横目で見ながら、更に声を忍ばせた。
「………………黄金だったのさ…髪の色がな」
「金髪かい…!?…………へぇ……そりゃあ珍しい………」
「………本当に余所者なんだな。………バリアンか?…フェンネルか…?」
…ここデイファレトでは、金髪なんてそうお目にかかれない。
国民の大半は色素の薄い髪色をしている。濃い色でも、せいぜい青色ぐらいだ。


