亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

美しい亡き王妃の美貌をそのままそっくり受け継いだアイラは、涼しげな笑みを浮かべて顔を上げた。

「………父上、私の魔の者から聞きましたが………本日、隣国からの使者が来ている、とか。………私も是非、父上と共に迎入れたい所存に御座います…」

「………何を言っておる…」

息子からの突然の申し出に少し狼狽しながら、老王は思わず呟いた。

「………いかん。………使者は使者であっても、外からの……忌々しい若輩の隣国からじゃ…。貴族の訪問とは訳が違う…!………国交などとほざきながら…裏で何を考えているのか分からん。………その様な下卑た奴等に……跡継ぎであるお前を会わせるなどと……」

「―――良いではありませんか、父上」



―――突如、老王のしわがれた声でも、癇に触る声でも、綺麗なテノール声でもない別の声が、アイラの後ろから割って入ってきた。

その声の主に老王とケインツェルは視線を移し、アイラはゆっくりと振り返る。






アイラ同様、兵士達が一斉に頭を下げている。







―――そこに立っていたのは、まだ11、12位の幼い少年。

赤褐色の肌に、短い赤い髪。アイラに似て凛とした整った顔立ちだが、その赤い瞳は刃物の様な鋭さがある。何を考えているのか分からない睨む様な目付きの視線は、何処に移っても常に刺々しい。

両耳の黒いピアスがキラリと光った。
何処か常人とは違う雰囲気を醸し出す少年は、声変わりしていない少し高めの声を発した。