「………………いつ襲撃にあっても、おかしくない事は……重々、理解していてもらいたい…」
不安げな表情で青ざめたサリッサは、こくこくと小さく頷いた。
「………でも……暗殺だなんて……一体誰が………」
ポツリと呟いた母の脇で、顔をしかめていたユノはそれに対し、鼻で笑った。
「………誰が?………ちょっと考えてみれば自ずと絞り込めるものだよ。………規模の大きい話だ。国家規模のね。……………恐らく、隣国バリアン………もしかしたらフェンネルなんかも………僕らを狙っているかもしれない………………理由は分からないけど」
………これは、陰謀。
影でこそこそと密談され、着々と進められている………誰かの企み。
「………………不満があるなら、王様自ら会いに来ればいいんだ………………大国三つの王が顔を合わせる機会なんて…無いだろうけど」
………皮肉めいた口調で言うユノ。とても11の少年とは思えない口振りだ。
ジッと見下ろしていたが、ザイは視線を外した。
「………………今はとにかく、先を急ごう………塔は目の前だ」
話はここで一端断ち、ザイは塔のある小高い丘を登り始めた。
まだ足元がおぼつかないサリッサを支えながら、滑りやすい雪路に足跡を付けていく。
……その姿を後ろから眺めていたユノは、レトの方に振り返った。
レトは少女の死体があった辺りでしゃがみ、散乱した血痕や細かい肉片に雪を被せていた。
そのすぐ傍らでいつの間にか戻って来ていたアルバスがヨチヨチと歩き、飛び散った肉片をつついていた。
「………………駄目だよアルバス。…………………人の肉なんか食べたら……おかしくなる」


