亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~







何故か黙り込んでしまったユノを、レトは不思議そうに見上げていると、樹木の群れの奥から、大人二人の異なる足音が聞こえてきた。


パッと振り返った先には、こちらに歩んで来るザイとサリッサの姿。

無言で近寄って来るザイは………片手に何かを引き摺っていた。

その後ろについて来るサリッサは、ザイが引き摺るそれから懸命に目を反らし、震える手で口を覆っていた。





ザイが乱暴に引き摺っているそれは、距離が縮まると共に……鮮明に……。








「………うっ……」

………それが何なのか。分かってしまったユノは思わず声を漏らし、しかめた顔を背けた。














………それは、無惨な屍だった。



……きっと、最初に襲ってきたあの狩人の男だろう。
…だが………判別し辛いほど、その顔は、人の顔とは思えない形状をさらけ出していた。



………男の頭は沢山の矢に貫かれ、まるで真っ赤な針山の様だった。

何処に目があったか、何処が口だったか………そもそもこれは本当に人だったのか。


動かない両腕は肩を深く抉られ、右腕は今にも胴体から離れそうだ。

ザイが掴んでいる左足も根元から折れているのか……不自然な方向に揺れている。






「………………ユノ!!………無事だったのね…!」

呆然と立ちすくむ我が子を見るや否や、サリッサは慌てて駆け寄って来た。

サリッサは目の前でしゃがみ、何処も怪我をしていないかユノの身体にそっと触れる。






自分達親子のいる場所の向かい。

…少女の屍を越えた向こう側で………顔色一つ変えずに会話する別の親子。
その会話は嫌でも聞こえてくる。