亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

ケインツェルは口元に笑みを浮かべたまま老王の背後に回り、玉座の後ろからそっと耳打ちした。
…玉座に指が触れそうになったが、何か見えない力によってケインツェルの指は弾き返された。


「………あちらの使者が、もう…すぐそこまで来ている様です。………物騒な物を所持していないか確認させますが………………不審な動きをした場合、どの様な処置を致しましょうかね?」


…何かを期待するかの様な妙にウキウキしたその声に、老王は一瞥し、ぶっきらぼうに答えた。

「………………構わん、殺れ…」

「………それはあっという間に国際問題に発展しますが、よろしいのですか?…戦争が始まりますねぇ…」

「………………だからどうした…。…………………それはこのバリアンからすれば……望んでいることじゃろう……………貴様もな……」

お前の考えなど手にとる様に分かる、とでも言いたげな老王の物言いに、ケインツェルは至極嬉しそうに、楽しそうに、にんまりと微笑んだ。

「………さすがは我等が王。………分かっていらっしゃる」


聞いている者を不機嫌にする側近の笑い声を無視し、老王は玉座から兵士で埋まっていく謁見の間を見下ろした。


ふとその視界に、武装した兵士とは明らかに違う人間が一人、人込みを掻き分けて歩いて来た。

…掻き分けるまでもなく、兵士達は自ら慌てて道を拓いていく。


その長身の男は玉座の前まで来ると、老王に向かって軽く会釈した。老王は顔をしかめた。

「………如何した、アイラ。………お前はここにいてはならん…」

呼んだ覚えなど無いのに、凛々しい顔立ちの愛息子のアイラが何故かわざわざやって来た。