亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

………赤。燃える様な、澄み切った紅色。



ランプの光の具合で、赤く見えたのだろうか。




………そんな事が一瞬脳裏を掠めたが、今は考えている場合では無かった。



















―――ユノの足元の地面が、突如………厚い氷で、覆われた。

「―――!?」



足元だけではない。

ユノを中心に、凹凸の激しい両側の壁や、逆さの針山同然の氷柱の天井が………既に凍て付いている光景が、更に厚い氷を纏っていく。

暗闇の中。
薄明かりに見える景色は、まるで硝子の世界。鏡の世界。


二人の吐く息も、白い濃度を更に増し、僅かな水分さえも結晶化していく。



………極寒の中の極寒。雪国を越えた別世界が、この洞穴の一部で生まれていく。

















―――…ハッとした様に、ユノは赤い両目を手で覆った。

忌わしいものを隠すかの様に、レトから少しずつ後退する。






「………来るな………来ないでくれ……」

…震える声で呟くユノ。

………氷柱の一部が、乾いた音を奏でて亀裂を生んだ。

「………あ…」



………離れていく彼に、レトは手を伸ばした。

何が起こっているかなど分かる筈も無い。

……だが、離れていく彼との距離をそのまま広げていってはいけない気がして。





凍て付いた空気の間に差し延べられた手を見て、ユノは一瞬困惑気味な表情を浮かべたが………彼の顔はすぐに背けられた。



「………近寄るな……来ないで…!…………………来るな!」


一際大きく叫んだ途端、ユノは踵を返して暗い洞穴の奥へと疾走した。