「ああ。異常な程にね。おかしいお前が更におかしい時は、いつも何か変わったことがある。………今回は何なんだ?」
アイラは素敵な笑顔を崩すこと無くケインツェルに歩み寄る。
…何か無言の圧迫を彼から受けている気が………否、受けているのだが、そこは手慣れたもの。
ケインツェルは持ち前の質の悪い性格で真正面から受け止めた。
「フフフフ!アイラ様も私に勝るとも劣らずお口の悪いことで!……何、大した事ではありますが、大した事ではありませんよ。アイラ様、第1王子ともあろう御方が、側近ごときの私と口を利いてはなりませんねぇ…」
「………誤魔化す気かい?………良いじゃないか口を利くくらい。………………可愛い弟は無口だし、話し相手がいないんだよ」
アイラは肩を竦めて溜め息を吐いた。
―――バリアン王50世には、二人の王子がいる。王位継承権を持つ二人の兄弟の内、アイラは長男の第1王子にあたる王族だ。
「………弟君が?…………リイザ様はまだ12という幼子でありながら、謙虚な方で御座いますからねぇ………アイラ様も苦労されていることでしょう。………腹の底が見えない事も加えて。アッハッハッハッ!!」
ケインツェルは羊皮紙を抱えたまま、身体をくねらせて盛大に笑い声をあげる。
「………腹の底が見えない、ね。………血の繋がった我が弟でありながら……奴の考えている事も、奴の事も理解しかねるよ。…………………腹心の魔の者…ログだったかな…?………あれを殴るのが習慣という事しか知らないな」
王族には一人一人、腹心の部下として魔の者がついている。


