亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

案内役の男に向かって、フードを外しながら再び笑顔を向けた。


白髪混じりの頭と、皺だらけの老いた顔が陽光の下で露になった。


歩きながらだが、それでも紳士らしく、恭しく頭を下げた。




























「………改めまして。………フェンネル国の使者として参りました、使者の長を勤めさせて頂いております。……………名は、アレクセイ=リドムといいます」





そう言ってアレクセイは眩しそうに、直ぐにフードを被った。


































「―――…えらくご機嫌じゃないか、ケインツェル…」

羊皮紙の束を両手いっぱいに抱えて意気揚々と自室に向かっていたケインツェルの背中に、苦笑混じりの落ち着いた低い声が投げ掛けられた。


銀縁眼鏡を光らせながら、ケインツェルはクルリと振り返り、声の主に視線を移した。

長い廊下の角に、腕を組んで壁に寄り掛かっている男が……いや、青年が一人。
成人は迎えているだろうが、まだ20には達していない位の青年。

赤褐色の肌に、結ったセミロングの燃える様な炎の色の髪。バリアンの人間によく見る容姿だが、その顔立ちは目を見張る程端整なものだ。

キリリとした目鼻立ち。切れ長の赤い瞳は何処か柔らかい印象を感じる。

腰にはフック型の短剣を添え、普段着というにはあまりにも質の良い服を纏っている。



その好青年が素敵な笑顔を浮かべて、ケインツェルを面白そうに観察していた。



ケインツェルはやはり意地の悪い笑みで、彼に向かって頭を下げる。

「これはこれは……アイラ様。………フフフッ………御機嫌に見えますかね?」