「バリアンから使者なんぞが来ても、適当に誤魔化しておけ。私が不在である事を決して感付かれない様に…」
「………はっ」
「それでも強引に会わせろだの何だのと言ってきたら………不法侵入だとか言って、ダリル、適当に追っ払え。もしくは代理でルウナを立たせよ」
「…了―解」
城の門前で、アレクセイ、ダリル、そして兵士達が見送りに出ていた。
マントを羽織った軽装で、ローアンは全員に視線を送る。
「―――敬礼」
やや不安げな声でアレクセイが叫ぶと、全員が一斉に姿勢を正し、ビシッと敬礼をした。
「……健闘を祈るよ、陛下」
相変わらずの無表情でダリルは呟いたが、やはり何処か不安そうな声音だった。
………無理も無い。
いくら護衛付きだからと言っても……国王自らが、極秘で未踏の地に踏み込むのだ。
………何が起こっても、不思議ではない。
何かの事故で死ぬ…なんて事も充分あり得る事だ。
「………心配は無用だ。………………私がなかなかしぶとい人間である事は、皆知っているだろう?………………今回も、私はしぶとく帰って来る。………………毎朝の墓参りを、私の代わりに誰かやっていてくれ」
ローアンは微笑を浮かべ、荷物を手に取った。
………その途端…。
「―――…母上ぇ―!」
今はまだ早朝。
就寝中である筈の我が子の元気な声が、城内の奥から響き渡った。
小さな影は兵士達の群れを掻き分け、アレクセイとダリルを追い越し………そのままローアンの足にしがみついた。


