「言った通り………進めてるだろうな?………………勿論父上にも……兄上にも………………誰にも気付かれる事………無く…」
「…………はい…」
「…………ふん……お前は影が薄いからな。………何をしたって気付かれまい……」
「………はい…」
リイザはゆっくりと布を掛けた窓に歩み寄り、質の良い縦長の布を勢いよく捲り上げた。
……布によって遮られていた眩しい陽光が、リイザの広い部屋にサッと入り込み……主の姿を照らした。
……痛みの無い目を刺す光は、まだ涙目のログの瞳に反射した。
雲一つ無い見飽きた晴天が背景に広がる中で、燃え盛る炎を宿した様な真っ赤な髪が、風になびいた。
「………………あの側近には、充分気を付けろ。………………………あれは馬鹿に見えて………予想以上に、巧妙だ………」
「―――…はい」
あの銀縁眼鏡の側近は、はっきり言って何を考えているのか分からない。
………底が見えない男。
………その点は、自分とよく似ている。
………胸糞悪いな。
……晴天の向こうに、一頭のサラマンダーが飛んでいた。
悠々と飛び回るその背に乗っているのは、兵士の様だ。
………波打つ空気の中を切り裂いて飛ぶ姿は、まるで真直ぐな意志、野望、夢……。
しかしああやって飛ぶには………風の流れを知り尽くしていなければならない。
…成す前に………今から何が始まるのか……早急に調べる必要がある。
城中はやけに慌ただしい。混乱の最中。
………もしかしたら……。
「……これに乗じて、成せるかもしれないな」


