亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



両手で身体を抱え、暗闇と共に横たわるログは、漏れ出る嗚咽と涙を堪え………震えていた。



………切れた頬の傷が、だんだんと塞がっていく。
しかし、血溜りは消えない。

蹴られ続けた腹部は傷がある訳では無いため、治癒能力は働かなかった。

純粋な痛みは、普通の生き物同様に依存するのだ。






「…………申し訳………ご……御座いま………せん…………ひっ……………申し…訳…御座いません……申し訳…御座いませ…ん……ひくっ………………」




痛々しい、嗚咽混じりの謝罪が木霊する。
……痛みを堪えて必死に謝るそんなログを、リイザは見ようともしない。

握っているナイフに付着した彼女の鮮血をじっと見詰め………「これはもう使えないな…」と呟きながら顔をしかめた。

リイザは触るのも嫌だと言わんばかりに、部屋の壁に向かってナイフを投げ付けた。



……真直ぐに飛来したナイフは、壁に勢いよく刺さった。









「………………もういい。………頼むから、そんな醜態を見せるな。……………虫酸が走る。…………………………次はしっかり調べてこい。……失敗は、許さない………。……………返事は…?」

ちらりとリイザの鋭利な眼光がこちらを向き、ログは反射的にビクリと震えた。


「―――………はい……」




「…………それと……………………………例の話だが………」









―――…例の話。














ログは痛む身体を酷使し、その場でゆっくりと膝を突いた。

………涙を拭い、恐る恐る顔を上げて、正面に立つリイザを見据えた。












「………はい。………少しずつですが……」