亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



……ログはゆっくりと身体を起こし、震える手で熱い頬に触れると………ベットリと、鮮血が指先を流れた。




………頬が………耳から唇まで横一文字に切れていた。

深い切り口からは、ドクドクと血が溢れ出す。





小刻みに震えるログの視界に、赤く染まった切れ味の良いナイフが見えた。

テラテラと光る刃の光沢は、鮮やかな赤い輝きを放つ。




………激しい痛みが襲ってきていたが……ログは、そんな痛みなどどうでもよかった。

………痛みよりももっと恐ろしいものが………直ぐに、この身に降り懸かるのだから。



……床に出来ていく血溜りを見下ろしていると、突然…グイッと髪を引っ張られた。


「………っ…」

息を吐く間も無く、ログはそのまま床に叩き付けられた。

大理石の血溜りの中に強打したか細い身体が、痛みに悲鳴を上げる。

もつれた長い緑の髪が、じんわりと血を吸って赤く染まっていく。



「……………リイザ…………様………申し訳御……………っ!?………………あっ…」





儚いログの言葉は、腹部への重い衝撃で跡形も無く、散った。


固い靴の爪先が、柔らかな皮膚を何度も何度も圧迫する。

















「…………お前は……どうしていつもそんなに役立たずなんだ?…………どうしていつものろまなんだ………………どうしていつも兄上のカイに先をとられるんだ………………………………役立たずが………糞が………………………………どうしてお前なんかが御付きなんだ……!」



……華奢なログを、容赦無く蹴り続ける。




力を込めて思い切り蹴りつけると、ログの身体は部屋の隅に転がった。