……ログはゆっくりと身体を起こし、震える手で熱い頬に触れると………ベットリと、鮮血が指先を流れた。
………頬が………耳から唇まで横一文字に切れていた。
深い切り口からは、ドクドクと血が溢れ出す。
小刻みに震えるログの視界に、赤く染まった切れ味の良いナイフが見えた。
テラテラと光る刃の光沢は、鮮やかな赤い輝きを放つ。
………激しい痛みが襲ってきていたが……ログは、そんな痛みなどどうでもよかった。
………痛みよりももっと恐ろしいものが………直ぐに、この身に降り懸かるのだから。
……床に出来ていく血溜りを見下ろしていると、突然…グイッと髪を引っ張られた。
「………っ…」
息を吐く間も無く、ログはそのまま床に叩き付けられた。
大理石の血溜りの中に強打したか細い身体が、痛みに悲鳴を上げる。
もつれた長い緑の髪が、じんわりと血を吸って赤く染まっていく。
「……………リイザ…………様………申し訳御……………っ!?………………あっ…」
儚いログの言葉は、腹部への重い衝撃で跡形も無く、散った。
固い靴の爪先が、柔らかな皮膚を何度も何度も圧迫する。
「…………お前は……どうしていつもそんなに役立たずなんだ?…………どうしていつものろまなんだ………………どうしていつも兄上のカイに先をとられるんだ………………………………役立たずが………糞が………………………………どうしてお前なんかが御付きなんだ……!」
……華奢なログを、容赦無く蹴り続ける。
力を込めて思い切り蹴りつけると、ログの身体は部屋の隅に転がった。


