殆どが闇に埋め尽くされた視界には、今にも消えそうな小さなランプの明かりと、何処からか差し込む陽光だけ。
明るい場所から急に暗いこの空間に移動してきたログの目は、この明暗のギャップに慣れようとしていたが………。
………そんな事をしなくても、たとえ目を瞑っていても、この空間に何があって……………………誰がいるのか、最初から分かっている。
―――シャリ…シャリ…シャリ…。
………ログの正面から、何かを削る様な音が…聞こえてくる。
それは不気味に、ログの中で何度も響き渡った。
「―――………ただ今…戻り…ました」
ログの小さな唇が、震えながらも微かに動いた。
……しかし、彼女の視線は足元を向いたままだ。
―――…シャリ……………シャリ………シャリ…。
………返事は無い。代わりに聞こえるのは、この音だけ。
……ログは両手で杖を抱き締め、その場で膝を突いた。
無意識に震えてしまう唇をギュッと噛み締め、それを悟られない様に懸命に声を振り絞る。
「―――………陛下は……長旅による疲労で………休んでおられました………。…………………先程、ケインツェルが………反国家組織の賊の、長と………密会を………して……」
「―――………肝心の、内容は…?」
……低いが、まだ何処か幼い声が聞こえた途端、ログはビクリと身震いした。
―――シャリ……シャリ………シャリ…。


