………………音も無ければ、気配も無かった。
しかし階段の側には………自分を凝視する鮮やかな緑の瞳があった。
…長い杖を握り締め、何の感情も秘めていない無機質な瞳をウルガに向けたまま佇む………魔の者、ログ。
………第2王子の、主人のリイザの元からまた離れて…こんな所にいる。
「………………ログ様………何をされているのですか……」
……数日前も同じ様な状況があった気がするが。
………ログは固く口を閉ざしたまま、螺旋階段の入口から脇にそっと立ち位置をずらした。
………どうぞ、通りなさいな、とでも言うかの様に………ログはウルガを見詰める。
「………………………………………失礼…」
ウルガは軽く会釈して、ログの前を通り過ぎた。
………不可思議な、装飾が施された美しい緑の瞳が………ウルガをじっと、ただじっと………見詰める。
前を通る時も、通り過ぎた時も、今こうやって階段を昇っている時も………その視線は、追いかけて来る。
背中に感じる奇妙な視線は、途切れない。
………螺旋階段の上へウルガの姿が消えた後、ログはゆっくりと廊下を歩きだした。
コツコツと長い杖を突きながら、足元をじっと見下ろして………………杖を小さく振った。
…途端、杖の先に付いていた緑の石が淡い光を放ち、その光はあっという間にログの身体を呑み込んだ。
ログの視界は明るい廊下から………一瞬で、仄暗い空間に変わった。


