亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

彼の指に挟まっているのは………ただの石だ。


何処にでもある様な、黒い石。ゴツゴツとした表面からは、鈍い光沢が放たれていた。




訝しげな顔で石を睨み付けるドールに、ケインツェルはにんまりと微笑を浮かべた。





「………おや、ご存じではありませんか?………………これは大変珍しい石でして………『空(から)の魔石』という……興味深い代物です。………簡単に言えば、魔力を吸い取る石…とでも申しましょうか………。この魔石にも幾つか種類がありましてね………」

彼の手の平で転がる小さな小さな石は、陽光に照らされ、内部が赤黒く透けて見えた。




「………この空の魔石は、大昔……魔術が扱える脱獄兵を捜すのに使われていたものです。………特定の魔力を感じると光だし、標的に触れると一時的に多量の魔力を吸い込むのです。……吸われた方はしばらく手足も動かせない程衰弱し……酷い時は死に至る。………そんな便利な玩具を、差し上げます」

「………物騒な玩具ね……………良いわ。………間違ってお前らの兵士に当てない様に………努力、するわ」


ドールの小さな手が、ケインツェルの手中で踊る魔石を掠め取った。
………そのまま懐に治め、正面の憎らしい側近を、キッと睨み付ける。







「………お前らのいい様に使われるのは癪だけれど…………………………これっきりよ。…………帰ってきたらまず……………にやけたあんたの首を、刎ねてあげる…」

「………フフフフフフフ!………ドール嬢、貴女は素敵なレディだ!………首を洗って待っていますね……しかし刎ねるのでしたら私の前に………まず…」














「―――………まずは、王族でしょう…」