「―――……何だと………?……………そんな……そんな…馬鹿な事があって…」
「…おやおやドール嬢…その様な悲しい顔をされないで下さい。………苦痛に歪んだ他人の表情を見ていると………不本意ながら、愉快で仕方無いのですよ!フフフフフ!!」
悪趣味な男の笑い声は、謁見の間に響き渡る。
わななく唇を噛み締め、ドールはギュッと握り拳に力を込めた。
……小刻みに震えながらも、何かを決意した様な澄んだ瞳は………足元に伸びる濃い影を見下ろしていた。
「………お前らの計画に荷担すれば…………………約束通り、長を…あたしの父を解放するんだな…?………………怪しい動きを見せればすぐに、内紛を始める。………分かっているな…?」
「ええ、ドール嬢。嬉しい限りですよ。父上のため、民のため、そしてこの国のために役立とうとする貴女はなんて健気で、勇敢なのでしょう!…………………手短に申しますね。………デイファレトには既に、およそ二百の兵を送り込んでいます。………貴女はそれらの兵を自由に動かして下さっても結構です。………ああ、そこの君…例の物を…」
周囲にズラリと並んだ兵士の一人に声を掛けると、兵士は何やら小さな物を手にしてケインツェルの元に駆け寄った。
「ああ、有り難う。下がっていいですよ。………………さて、勇敢なドール嬢………………貴女のお仕事は、非常に難しい。………その難易度を少しでも軽くするために………こちらを差し上げましょう………」
ニヤニヤしながら、ケインツェルは細い指先でその小さな物を………摘んで見せた。


