亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



イブは一人席を外し、飲み屋から外に出た。

降りしきる吹雪きが容赦無く肌を刺す。
肩を縮こませて身震いをしながら、店の裏手に回った。


周りに誰もいないか確認した後、イブは積雪の中で、目を閉じて深呼吸をし………小さな牙が覗く口を大きく開けた。





―――…はぁ…とイブが吐いた息は白ではなく、真っ赤な蒸気の様だった。

赤い吐息に混じって口から出てきたのは………手の平に収まる位の、小さな小さな生きた蜘蛛。

ちょっとグロテスクな形容の真っ赤な蜘蛛はカサカサと足を動かしてイブの舌を這い、そのまま足元の雪の上に落ちた。



赤い蜘蛛は地面に降り立つや否や、そのまま吹雪の夜の暗闇へと、消えていった。

イブは我が子を見送る母の様に、何処かに行ってしまった蜘蛛に向かって手を振る。





「………隊長にちゃんと伝えてね―!連絡は任せた!!」