亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~




術者の誰もが、本の僅かでも隙を持っている。それがいつ、どのタイミングで、どのくらいの長さなのか。
防御に徹しながら探るのを、ノアは怠らない。


魔術が発動した直後、それはそれはもう本の一瞬の、息をする間も無い程の束の間なのだが……そこが、目の前の強敵の唯一の隙であるとノアは確信していた。

後は、そこを突くだけ。


しかも、彼の身に纏う結界を破る…最低でも弱められるくらいの、強力な不意打ちを。



全身全霊の魔力を、叩き込む。


弱り切ったこの身では、搾っても本来の半分以上の力も出せないが。
…望みを捨てる訳にはいかない。


何処からか、レトらしきものの気配が感じられる。上手く潜んで、好機を待っているのだ。



「……期待には、御応えしなければ…」

苦笑すると同時に、背後から伸びてきた氷の腕に向かって黒い魔法陣を放った。
瞬時に粉砕するのを横目で見届けたノアの首筋に、もう幾つ目か分からない鋭利な傷が走る。
肌に浮かぶ黒い刺青は、もう傷だらけで見えないのではないか。



「……ユノ王子、まだその耳には私の声が届いておりますか?」

額から流れ落ちてきた血を拭い、眩しい光の塊と化している彼に向かってノアは明るい声をかけた。
入り組んだ魔法陣の隙間から微かに覗く赤い瞳は、ただぼんやりと目の前のノアを見詰めている。
…映しているだけで、見ていないのかもしれないが。



「………王子、貴方はとんだわんぱく坊やですね。貴方の御祖父様である前王は、どちらかと言えば消極的な御人でしたよ。これまで私が仕えてきた貴方の先祖を振り返っても…貴方程荒々しい方はおりませんでした。…今回の件は……その性格が、災いしたのでしょうか?」

はっきり言って、ノアに余裕など無い。緊張感やら焦燥感、他の諸々の負の感覚に溢れたこんな時でも、自然と笑みが零れるのは性分なのだろう。
血を流しながらもぺらぺらと饒舌に話すノアに対し、ユノは不思議そうに小さく首を傾げた。どうやら声は聞こえているらしい。