何となく目元を擦ってみると…あれ程涙で溢れて濡れていたというのに、今は外気に撫でられ、すっかり乾いて冷たくなっていた。
自分はもう泣いていないと分かると……少し前の、迷いも何も無く弓を引いていた頃の自分に戻ったのかもしれない…とレトは思った。
それでいいのだ。
今だけは、そうあるべきなのだから。
今僕は、ただの、狩人だ。
…スッと冷たい空気を胸に収めると、白い吐息を漏らしながら……レトの口は自然と決まった言葉を呟き始めた。
小さい頃からいつの間にか頭に刻まれていた、お決まりの儀式的なその言葉は…きっとこれまでの狩りの中で、一番重要で、重くて、確かな意味を持つもので…。
「―――…生を、受けた者と…して」
『僕の名はユノ。誠名はユノマリアン=エス』
瞬きをする度に、まだ新しい記憶の断片が懐かしい色を帯びて脳裏を過ぎる。
流れていくそれらを、レトは一つずつ噛み締めて、そして目を背けた。
目下で眩しく輝く青白い光源のシルエットを見据えて、レトは目の前で絡まる凍てついた枝に弓を立てかけると…。
本来ならば左手で掴むべき弓の柄を、左足で踏み付けた。
ずれない様、靴底の位置を決めて適度に体重をかけながら、長身の弓を押さえ付ける。
…腕一本しか使えないのならば、足を使うしかない。
細い銀糸の弦を、動く右手の親指に引っ掛けると…ゆっくりと、胸を反らしながら弦を引いた。
次第に大きく、半月の形へと反る弓。引く所まで引くと共に、ピンと張り詰めた弦と弓の間に白く細かな光が集まっていく。
「―――生を狩る…狩人として……」
『…もっと笑いなよ。たくさん…たくさんね』
『………笑うの…苦手だから』
『大丈夫さ。僕の護衛をする間は、たくさん笑ってもらうから』
ゆっくりと集っていく白い光は、徐々に細長い矢の形状を象っていく。
右頬に触れるそれは、昔から感じてきた冷たさ。


