ギュッと柄を握れば、短いそれは直ぐさま上下先端の枝を絡ませ合いながら、青く美しい曲線を描く長い弓へと姿を変えた。
冷たいけれど、何処か木の温もりが感じられる弓を胸に抱き…そのままレトは顔を埋めた。
弓は、狩人にとってただの武器ではなく、掛け替えの無い自分の分身の様なものだと、うんと小さい頃に教わった。
…確かに肌身離さず持ち歩くそれは、無いと落ち着かなくなる程、ほとんど身体の一部と化していた。
この弓は、狩人の証。
弓を使う時は、本気の戦い。
弓を握る事自体が、何かしらの覚悟を決める時。
この弓は、それ程までに重いものなのだ。
神聖な、儀式なのだ。
(………)
閉じた瞳は瞼の裏の闇を見詰め、それと同時に走馬灯の如く駆け巡る記憶の断片を映していた。
脳裏をちらつくそのどれもが、あの子…ユノの姿でいっぱいで、そしてこれまで溜め込んできた記憶の中でも、まだまだ新しいものであることに気が付いた。
全く色褪せていないそれらは、まだ数週間かそこらという程に短くて。しかしとても、輝いていて。
楽しくて。楽しくて。
耳をつんざく雷鳴の如き衝撃音が、遥か下の、目下の地上で幾つも鳴り響いた。
視界の端で、青白い光と真っ黒な稲妻が互いに踊り狂うのを眺めながら、レトはゆっくりと手元の弓を立てた。
何とか腰掛けられる僅かなスペースしかない、不安定な足場で少しずつ身体をずらし、痛む手足を庇いながら荒れ狂う地上を見下ろした。
レトの手元にある武器は、今はもうこの弓しか無いのだが……弓の柄を握る左腕は、だらだらと血を流すばかりでピクリとも動いてくれない。
こんなボロボロの使えない身体で弓を引くなど、まともに出来る筈がないのだけれど…無茶を承知で、そして必ず成功させなければならないのだ。
体力的にも、タイミングからしても……次の一撃が、許される最後の一撃となるのだから。


