この夜。今ここで、新しい王が生まれようとしている。
その王の目に映り、名を呼ばれるなんて、何て光栄な事だろうか。
一兵士としてそれは喜び以外の何物でも無いのだが、状況が状況なだけに、素直に喜ぶ事が出来ない。
…この少年は、我等の陛下をあの小さな手で殺した。実の兄までも、その手にかけた。
父親殺しの罪深き人間であることは変えられない事実であり…。
…しかしそれと同時に、この国の新しき王となる人間でもある。
少年の諸行は酷く残忍で、決して許されるものではない。
まともではない。この少年を、王として迎えてはならない。
…その筈、なのに。
(………私は…愚かで………浅ましい…)
自分を取り巻く周りの存在が大きく変わる事に、ウルガは希望を見出だし、そしてそんな自分に絶望した。
変わるのだ。
虐げられていたこれまでの自分を、捨て去る事が出来る。
私は、ウルガ=デニメスだと…誇りを持って、言える。
彼が、私の名を呼んだのだから。
新しき王が、私を見ているのだから。
(………穴からはい上がりたいがために、悪魔の手を取るなど………堕ちたものだ)
罪悪感さえも覚える、自らを卑下する思いに襲われながらも……迷走する気持ちとは裏腹に、ウルガの身体は動いていた。
暗くなった視界。
松明の明かりが反射して見える目下の大理石を見詰める両目を、ゆっくりと閉じた。
何が正しくて、何が違うのか。
私のこの行いは、果たしてどちらなのか。
様々な思いに揺れ動かされて狂った己の天秤に、ウルガは静かに蓋をした。
頭上から注がれる幼い視線に向かって、口は意に反して勝手に言葉を選んでいた。
いや、これは、もしかすると本心なのかもしれない。
私の、私も知らない私だけの、秘めた本心が。
「御仕え致します……陛下」


