赤槍の一人娘…ドールには、どうやら白骨と化した姿ではなく、息のある生身の人間に見えていた様だ。
見張りの兵士達の誰もが不思議に思っていたが、そのままでいい、問題無い…と指示を下していたケインツェルに、誰も口出しする者はいなかった。
今思えば、あれは今回の賊討伐への伏線としてケインツェルが仕掛けていたものだと考えると、散乱していたピースが合致する。
「ええ、あれはとても簡単でしたねぇ……あの蝶の目に、生きていた頃の赤槍の姿をずーっと見せていただけでしたから……間接的とはいえ、お嬢さん一人の純粋無垢な心を騙せたのですから!非常に楽でしたよ!バレてしまった時のドール嬢の儚げなお顔を是非とも拝見したかったですねぇ!!」
相変わらずの癇に障る笑い声を上げるケインツェルの背中に、ウルガは苛立ちを露にした視線を送っていた。
争いにおいて、勝つためならば策に卑劣も何も無いのだが…この男の諸行だけは、酷く憤りを覚える。…昔から、この男だけは味方であって味方とは思えないでいた。
肩を震わせて笑い続けるケインツェルを、リイザの足元で構えるログは汚らしいものでも見るかの様な目で見詰め、一歩後退した。
玉座を背に腕を組んで佇むリイザは、眉をひそめて再度口を開いた。
「…その力で城の人間を…父上までもを欺いて、堂々と紛れ込んでいたという訳か…。国王の側近となって政に関わり、着々と地位を高め、そして…この夜の喜劇にまで自ら赴いたお前は………………一体、何がしたいんだ……」
言い終えると同時に、リイザは短剣の刃先を階上からケインツェルに突き付けた。
緩いカーブを描く独特の刃を兼ね備えた短剣。吸い上げた血の色に刃の根本まで染まっていたそれは、いつの間にかすっかり乾いていた。
ギラリと鈍い光沢を放つ赤い刃を見上げたケインツェルは、張り詰めた場の空気をぶち壊すかの様に、再び腹を抱えて甲高い笑い声を上げた。
銀縁眼鏡の不気味な反射光の内で、男の目は、笑っている。
それはそれはもう、愉快だと言わんばかりに。
道化士の仮面の様に。
「―――私はねぇ、王子。………楽しければ良いのですよ…!!」


