亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


謁見の間に響き渡る気味の悪い笑い声を背景に、その後ろで黙って聞いていたウルガは、思いがけないその告白に息をのんだ。

―――『理の者』…?


「………お前、が…理の者…だと…?」

動揺を隠しきれないウルガは、ちらりとこちらを一瞥してきたケインツェルの笑みに、ビクリと身体を震わせた。
銀縁眼鏡に手を添えながら改めてリイザに向き直ると、ケインツェルは更に笑みを深める。




「…私は、第五の理…『幻惑と誘致』というものです。力の特徴としては、まぁ簡単に述べますと………人様の心を面白おかしく弄る事が出来る…という、なかなかに愉快な能力ですかねぇ!何しろ他人の心を覗き見る事が出来ますから、使えば使う程病み付きになる素晴らしいものですよ!」


大袈裟な身振り手振りで高笑いを繰り返すケインツェルの態度に、ウルガは奥歯を噛み締めながら「…下衆め」と呟いた。




第五の理『幻惑と誘致』は、他の能力に比べて保守的でも攻撃的でも無い、中間に位置する独特の能力である。
他人の記憶や深層心理に入り込み、そこから幻惑するための幻を作り出す事が出来る。
力の主体はいわば、精神への攻撃。相手の意識を乗っ取った後、更なる精神攻撃で誘致をするのだ。生かすか殺すか、どうなるかは術者の意のままである。



「………以前から、臭い奴だとは思っていたが………案の定だな。…以前、お前の身の上を調べた事があったが…」







―――無かったのだ。

何処にも、何も。
この城に仕えている側近、ケインツェルという男の情報が、何もかも。

そう…ふと記憶を辿ってみると、ケインツェルというこの男がいつから城にいて、いつから側近にまで昇進したのか…実は誰も知らない事に気が付く。

誰も男の事を知らない。だが、男はここにいて、側近という位置についている。明らかに怪しい存在なのだが…不思議な事に、その事に関して誰も違和感を覚えずに流してしまうのだ。

「…以前捕らえた三槍の内の一人…赤槍の件もそうだった。…奴ら三槍の連絡手段である小賢しい虫は、既に息絶えた赤槍の死骸を映していたにも関わらず……赤槍の小娘には何故か、死骸に見えていなかったらしいが…」