亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

私は、魔の者です。

ちょっと長生きし過ぎている、ちょっとばかり力の強い、ただの魔の者です。

私という存在は、国のためにあるもの。
国のため。その頂天に立つ王のため。
敬愛する、愛しい愛しい主のため。


この国のためならば、どうぞ。
躊躇いなく、この身を使って下さい。戦火に放って下さい。駒にして下さい。貴方様の盾としてお使い下さい。


主のお役に立てる事が、最上の喜びなのですから。



ですから、そんな悲しい顔をしないで下さい。




……ああ、もう………先程死にたいと告白したばかりだというのに。

………まだまだ、私は死ねない様ですね。貴方はどうも危なっかしくて、放っておけない。

貴方が私の次の主になるのならば。

願わくばもう少しだけ。
私は生きてみたいと思います。

願わくば。









「ノア…!」

複雑に絡み合った枝のカーテンが、縦横無尽に空間を埋めていく。突き飛ばされたレトの視界から、遠くなっていくノアの微笑が消えた。



その姿を追い求めようと走り出しそうになる足を、脳裏をかすめるノアの言葉がすんでの所で止めた。

再び熱く火照りだす両目を、少し痛いくらいに無造作に擦った。

しゃくり上げそうになったが、無理矢理何度も息を止めて堪えた。

情けない泣き言を漏らしそうになるが、ギュッと唇を噛み締めた。







レトは、走った。
騒乱の渦中から少しでも離れるべく、敵に背を向けて駆けた。




天井から地上まで、相当な高さのある壁一面に這った枝に飛び付き、靴に仕込んだナイフを氷の壁に突き刺しながら、レトは登っていく。










次の一瞬を、一撃で。




迷いも、失敗も、許されない。

闇の淵からじわじわと昇ってくる、夜明けの匂いがする。
この夜は、もうすぐ終わる。


長い長い夜が、終わりを告げる前に。









「………父、さん………………僕………怖い、よ…」

手を伸ばせば、凍り付いたシャンデリアに届くほどに高い天井近くまで登ると、レトは交差する太い枝に腰を下ろした。