私は、魔の者です。
ちょっと長生きし過ぎている、ちょっとばかり力の強い、ただの魔の者です。
私という存在は、国のためにあるもの。
国のため。その頂天に立つ王のため。
敬愛する、愛しい愛しい主のため。
この国のためならば、どうぞ。
躊躇いなく、この身を使って下さい。戦火に放って下さい。駒にして下さい。貴方様の盾としてお使い下さい。
主のお役に立てる事が、最上の喜びなのですから。
ですから、そんな悲しい顔をしないで下さい。
……ああ、もう………先程死にたいと告白したばかりだというのに。
………まだまだ、私は死ねない様ですね。貴方はどうも危なっかしくて、放っておけない。
貴方が私の次の主になるのならば。
願わくばもう少しだけ。
私は生きてみたいと思います。
願わくば。
「ノア…!」
複雑に絡み合った枝のカーテンが、縦横無尽に空間を埋めていく。突き飛ばされたレトの視界から、遠くなっていくノアの微笑が消えた。
その姿を追い求めようと走り出しそうになる足を、脳裏をかすめるノアの言葉がすんでの所で止めた。
再び熱く火照りだす両目を、少し痛いくらいに無造作に擦った。
しゃくり上げそうになったが、無理矢理何度も息を止めて堪えた。
情けない泣き言を漏らしそうになるが、ギュッと唇を噛み締めた。
レトは、走った。
騒乱の渦中から少しでも離れるべく、敵に背を向けて駆けた。
天井から地上まで、相当な高さのある壁一面に這った枝に飛び付き、靴に仕込んだナイフを氷の壁に突き刺しながら、レトは登っていく。
次の一瞬を、一撃で。
迷いも、失敗も、許されない。
闇の淵からじわじわと昇ってくる、夜明けの匂いがする。
この夜は、もうすぐ終わる。
長い長い夜が、終わりを告げる前に。
「………父、さん………………僕………怖い、よ…」
手を伸ばせば、凍り付いたシャンデリアに届くほどに高い天井近くまで登ると、レトは交差する太い枝に腰を下ろした。
ちょっと長生きし過ぎている、ちょっとばかり力の強い、ただの魔の者です。
私という存在は、国のためにあるもの。
国のため。その頂天に立つ王のため。
敬愛する、愛しい愛しい主のため。
この国のためならば、どうぞ。
躊躇いなく、この身を使って下さい。戦火に放って下さい。駒にして下さい。貴方様の盾としてお使い下さい。
主のお役に立てる事が、最上の喜びなのですから。
ですから、そんな悲しい顔をしないで下さい。
……ああ、もう………先程死にたいと告白したばかりだというのに。
………まだまだ、私は死ねない様ですね。貴方はどうも危なっかしくて、放っておけない。
貴方が私の次の主になるのならば。
願わくばもう少しだけ。
私は生きてみたいと思います。
願わくば。
「ノア…!」
複雑に絡み合った枝のカーテンが、縦横無尽に空間を埋めていく。突き飛ばされたレトの視界から、遠くなっていくノアの微笑が消えた。
その姿を追い求めようと走り出しそうになる足を、脳裏をかすめるノアの言葉がすんでの所で止めた。
再び熱く火照りだす両目を、少し痛いくらいに無造作に擦った。
しゃくり上げそうになったが、無理矢理何度も息を止めて堪えた。
情けない泣き言を漏らしそうになるが、ギュッと唇を噛み締めた。
レトは、走った。
騒乱の渦中から少しでも離れるべく、敵に背を向けて駆けた。
天井から地上まで、相当な高さのある壁一面に這った枝に飛び付き、靴に仕込んだナイフを氷の壁に突き刺しながら、レトは登っていく。
次の一瞬を、一撃で。
迷いも、失敗も、許されない。
闇の淵からじわじわと昇ってくる、夜明けの匂いがする。
この夜は、もうすぐ終わる。
長い長い夜が、終わりを告げる前に。
「………父、さん………………僕………怖い、よ…」
手を伸ばせば、凍り付いたシャンデリアに届くほどに高い天井近くまで登ると、レトは交差する太い枝に腰を下ろした。


