亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

何処からともなく、見境なく生え伸びてくる枝の群集は、互いに交差し、編み目状に絡み合いながら、空間を埋め尽くしていく。

謁見の間は、氷と枝が混在する奇妙な世界へと更なる変貌をとげていった。


そして必然的に、枝はレトとユノを隔てる障害となった。
今しがたレトを囲んでいた筈の魔法陣も、どうしたわけか…か細い枝の指が絡み付いた途端、掻き消えてしまったらしい。レトの四方は、まるで嘘の様にユノの魔力が忽然と失せていた。


すぐ目の前に佇むユノの姿が、編み目状に絡んだ枝の壁の向こうに消えていく。
赤い瞳の輝きが、だらりと垂れ下がる薄い葉のシルエットに隠れた直後…。


―――ああ、今しかない。



レトは、ユノに背を向けて走った。
…この、不意に訪れた思いがけないチャンスを、逃す訳にはいかない。





絶望を、振り切るのだ。








いくら疲労困憊していても、逃亡となれば何故か身体は動くものだ。
本能が生に執着しているのだろうか。

全身の痛みも寒気もかなぐり捨て、レトはこの混乱に乗じて再び逃亡をはかった。
フラフラとよろけながらも前へ進むその背中に、ユノの狂った叫び声が突き刺さる。それと同時に後方から溢れ出すのは、空虚な殺気の嵐。

絡み付いた枝と枝の隙間から漏れ出る青白い光が、次第に魔法陣を象っていくのが視界の隅に見えた。



とうに見飽きた複雑怪奇な円が、レトの四方にじわじわと浮かび上がる。
形成されていく恐ろしい光を振り切る様に、レトは足を早めた。

道無き道と化した凍った茨の森。暗中模索をする様にただただ駆け抜けるレトに、誘いの声が向けられた。

「レトバルディア、こちらです!」



…ハッと声のする方へ顔を向ければ、視界の悪い枝の群れの向こうに佇むノアの姿があった。
ノアの、前へまっすぐに伸ばした手の人差し指を中心に、大きな黒い魔法陣がぼんやりと浮かび上がっているのが見える。

「………ノア…!」

今にも倒れそうな程によろけながら、レトはノアの元に辿り着き、勢いをそのままにその長身にしがみついた。