絶望の淵など、これまでにも何度も目の当たりにしてきた。
それはその都度形を変えて襲ってくるものだが。今、粉砕していく金属の細かな瞬きの向こうに覗く、あの赤い瞳の不気味な笑みは、絶望なのだろうか。
もしそうだとするならば、自分にはもう、のまれる他は無いのかもしれない。あの絶望を断ち切る刃は、無惨に砕かれてしまったのだから。
赤い瞳がゆっくりと細められると共に、レトの四方を小さな魔法陣が囲んだ。
何処にも、逃げ道は無い。避けなければと焦る気持ちが増す一方で、身体は既に、ついていく力を失っていた。
少し前にも味わった絶望は、何とか回避出来た。
だが、今回はそう上手くはいかない。
悪あがき同然だが、反射的にレトは身構えた。
魔法陣の光を全身に感じた。
絶望を前に、独りでは何も出来ないと父さんは言っていた。どんなに強くったって、強がってみたって、たった独りだけのこの身には、越える力は無いのだと。
いつだってそうだ。
いつだって、そう。
結局は、誰かの力無しでは、人は生きていけないんだって。
―――。
(―――…?)
薄い瞼を差す、恐ろしい青白い光。
眩しいと感じたそれは、突然行く手を断たれたかの様で…。
…レトの身を覆ったのは眩しい光ではなく、夜の闇だった。
直ぐさまこの身に降り懸かる筈であった魔力が、何故か一向に迫って来る気配が無い。
それどころか、痛みとは正反対の場違いなくすぐったさを手足に感じ、何事かとレトは閉じていた目を見開いた。
凍てついた夜気に再び曝されたレトの瞳が真っ先に捉えたのは…深緑の群れ。
新緑を芽吹かせた、入り乱れる枝のシルエットだった。
「………木…!?」
一体何処から…と、その根元を目で追えば、枝の群れは目下の足元から生えていた。
一見脆く見える細い枝が、遥か地中の奥深くから固い地盤を押し退け、大理石の床と厚い氷を貫いてきたらしい。


