半ば剣を引きずりながら走るレトの前方で、ユノは迎い撃とうとする動きも見せず、人形の如くその場に立っている。
だが、こちらを見詰めてくる赤い瞳は、決してレトから外される事など無い。
本の少しだけ隙間の覗いた彼の口が、微かに微笑を浮かべている様にも見えた。
―――躊躇うな。
「はああっ…!!」
がむしゃらな突貫だと、自分でも思う。こんなに声を張り上げるのも、こんなに無我夢中で剣を振るのも、実は初めてかもしれない。
こんな戦い方、父さんが見たら何て言うだろう。
父さん、僕は以前の僕よりも本の少しだけ、強くなったと思う?
僕はちゃんと、狩人になっているかな。
狩人に、なりきれているかな。
真横に一文字、レトは無心で剣を振るった。
…しかし案の定、先程と同様に刃は標的を断つ事も出来ず、青白い光によって寸前で止められてしまう。
いくら力を込めても、いくら押しても、剣はそれ以上進まない。
もどかしさに奥歯を噛み締め、更に一歩前へ踏み出して力を加えると…あれほど丈夫だった剣に、小さな刃毀れが生じた。
銀の鈍い光沢にピシリと走る細い亀裂。
目に見える崩壊の予兆に、レトは一旦退こうとしたが…。
…引っ込めようとした鋭い刃を、不意に掴んだ白い手が阻んだ。
それまで微動だにしていなかったユノが、ここにきて動いた。
亀裂をなぞるその細い指先の動きを、動揺に大きく見開かれたレトの目は静かに追った。
一秒にも満たない、その本の僅かな時間。
彼の指の腹が、スウッ…と固い金属の肌を撫でた途端…。
「―――敵」
―――パリンッ…という、硝子の割れる音色にしては少々鈍く重みのあるそれが弾けたかと思うと。
…反動で思わずのけ反ったレトの鼻先を、粉砕した刃の欠片が、掠めていった。
…胴体を砕かれた剣の鋭い剣先が、まるで身体から切り離された生首の様に、虚しく地面に転がり落ちたのが目に入った。
(―――駄目、だ…)


