真っ逆さまに落ちていく中、レトは、剣を握り締めた。
宙で身体を捻り、真下からこちらを見上げる真っ直ぐな赤い瞳に向かって。
大きく、動く右腕で、振り被って。
―――…今度はもう、僕に……迷いは、無い。
「―――絶対に…嫌だ…!!」
落下の勢いの全てを刃に乗せて、レトはユノに向かって垂直に剣を下ろした。
人間の胴体や大木などいとも容易く両断するレトの一閃が、瞬きもせずにじっと見上げていたユノに、直撃した。
―――正確には、彼が纏う青白い魔法陣に、だ。
勢いよく下ろされた剣は、すんなりと獲物を断つ事が出来なかった。
(………っ…)
研ぎ澄まされた刃は、ユノの額に触れるか否かという所でピタリと止められてしまった。
同時に、彼の全身に薄く浮かび上がった魔法陣が光を放ち始め、レトの剣を覆ったかと思うと…。
―――バチッ…と、静電気に似てはいるが、威力は倍以上の青白い電流が両者の間に雷の如く瞬いた。
突如襲ってきた身体の痺れと浮遊感に、レトは自分が何らかの力によって弾き飛ばされたのだと理解した。
今の今まで目と鼻の先にあったユノの姿が、たった一度の瞬きをした次の瞬間には、数メートル先にあった。
そして僅か一秒足らずの後に襲ってきたのは、全身に走る鈍い痛み。
「―――っあ…う…!!」
受け身も取れずに冷たい床に叩き付けられた身体は、一斉に無言の悲鳴を上げた。
何度か小さく跳ねてゴロゴロと転がり、視界いっぱいに回る、天井と床の景色の往復が三回程続いた後…ようやく身体は止まった。
軋む様な全身の痛みに唇を噛み締め、レトは目眩に襲われながらも脇に横たわる剣を掴むや否や、弾かれた様に身体を起こし、再びユノに向かって地を蹴った。
こんなの、痛くない。ちっとも痛くないよ。
皆の痛みに比べれば。
僕の、痛みなんか。
「…痛く、ないっ…!!」


