ここは、何処だろう。
そう思わずにはいられないほど、そこは数分前の景色の面影を微塵も残さぬくらいに変貌に変貌を重ねていた。
豪華絢爛、美しく優雅な謁見の間は……酷く入り組んだ鍾乳洞の世界に豹変していた。
あんなに開放感溢れる広々としていた空間が、今は天井から、床から、壁からと、縦横無尽に生えて突き出た太い氷柱に埋め尽くされている。
幾重にも重なったそれらは、一見雑に交わっている様に見えるが、各々が格子状に上手く交差しており、まるで室内全体が氷の檻となっていた。
廊下に繋がる扉も、いつの間にか口を塞がれている。逃げ場は無い。
中にいる者を決して逃がさぬ、巨大な檻。
…ここは、鳥籠なのだ。
逃げ道は無くとも、この氷柱だらけの入り組んだ空間だ、身を隠す影や隙間が出来た事だけが幸いだった。
謁見の間全体から見ると、やや入口の扉に近い方の壁際だろうか。
ステンドグラスの窓を背に、突き出た氷柱の影に身を寄せる様にしてレトは隠れていた。
激しく肩で息をする身体は、いくら動いても一向に温まる事が無い。むしろ冷たくなっている様に思えた。
短剣をほとんど感覚の無い片手で握り締め、何度も何度も目を走らせて周囲を伺う。
(………)
…竜巻が消えてからというものの、やけに静かになった空間。
時折月明かりに反射して、あちこちで鈍く光る氷の瞬きが引っ掛かる視界の中を…不意に、それらとは明らか違う眩しい光が横切った。
(―――っ…!?)
目にした途端、レトは反射的に影に身体を押し込んだ。
一気に押し寄せてくる緊張感に、流れる冷や汗と、気持ちの悪い鳥肌が立つのが分かった。
(……駄目…落ち着いて……落ち着かないと…)
天敵に狙われた獲物の心境とは、こういうものなのだろうか。
とにかく今は、息を殺して無になりきるしかない。
…勇気を振り絞り、ばくばくと激しく波打つ心臓を無視してレトは表をちらりと見遣った。
その視線の先を………青い目玉が浮かび上がった奇妙な魔法陳が、ゆっくりと飛来していった。


