城の奥からだろうか。
暗闇と吹雪という最悪の視界の中、唯一の救いである月明かりが微かに見せてくれた光景は、酷く滑稽なものだった。
地響きに似た耳をつんざく大音響と共に、凍てついた城のあちこちから、鋭く尖った氷が何本も生えてきたのだ。
ただでさえ不気味な風貌で孤立していた城が、針だらけの奇怪なシルエットへと変貌していく。
「………何、あれ…」
「……俺が知るかよ」
大小の巨大な青白い刺が天を貫く勢いで生えていく様を、イブとリストは呆然と眺めるばかりだった。
その傍らでは、既に息の無い冷たいイーオの遺体を両手に抱えるジンが、鋭い隻眼で変わりゆく城の姿を険しい表情で見詰めていた。
「………禍々しき光景です」
自然の光とは違う、青白い光はやけにギラギラとしていて、ゾッとする程だった。
本能的に全身の毛が逆立つ我が身の弱さに苛立ちを覚え、ひそかにトゥラは唸り声を漏らした。
どんどん冷たく、厚さを増しながらも更に重なっていく積雪に膝を突き、革手袋を取り払った手の平を地面に添えた。
きめ細かい色白の肌が、極寒の空気に曝され赤みを帯びてくるが…そんな事など、気にしている暇など無い。
風に靡く金髪を乱暴に後ろに追いやると、ローアンは真正面に佇む城を睨み付けた。
「………私を追い出したからといって………好き勝手出来ると思うな…」
嘲笑混じりにそう呟けば、ローアンの周りの空気は一変……闇を払う様に緑色の靄が辺り一面に現れたかと思うと、それらは一瞬で目下の大地に吸い込まれていった。
…一見、何の変化も見られないが、見えぬ所でローアンの意志は動いていた。
空のスカイブルーから赤へと変わった、ローアンの瞳が見下ろす大地の奥深くで、強大なそれは息を潜めて城の足元に忍び寄っていく。
「―――…壁が阻むのならば、突き破るまでだ」


