彼女を目の前に足を止めたユノは、自分を見上げてくる大粒の涙で満たされた悲しげな瞳に視線を下ろした。
こうやって向き合うのも、目を合わせる事さえも随分と久方振りに思える親子の対面。涙でぐしゃぐしゃになった情けない顔を息子に見られようが、もうどうでもいい。
…今はただ、この子を…。
「ユノ…!…お願いだから…止めてっ…!もう…こんなこと…!」
震える声で懇願しながら、サリッサは縋る思いで手を伸ばした。
細かな青白い光に包まれた、我が子の小さな身体にその指先が触れる寸前。
サリッサを見詰める赤い瞳の輝きが、ゆらりと揺らめいたかと思うと。
「―――…き……」
「………え?」
至近距離でも聞き取るのが難しい、その微かな我が子の声に、サリッサは目を見開き…。
真っ白なユノの人差し指が、サリッサをゆっくりと差したと同時に……彼の唇はポツリと、たった二文字だけの、短い言葉を紡いだ。
「―――………“敵”」
「サリッサさん!!」
―――瞬間、ユノを中心に、雷撃の如き青白い光を放つ凄まじい竜巻が吹き渡り、その猛威を振るった。
容赦無い凄まじい風圧に、いとも容易く身体は風に流されてしまいそうになる。
天井高くまで巻き上がる竜巻に吸い込まれまいと、レトは足元に突き刺した剣にしがみついた。
竜巻から離れた部屋の隅に、ふわりとノアは舞い降りた。
脇に抱えていたドールと、そして寸前のところで救い出したサリッサをそっと冷たい床に下ろす。
サリッサはそのまま、地に膝を突いて、次第に静まっていく竜巻を眺めた。
…肩を震わせて、唇を噛み締め、嗚咽を漏らして。
やり場の無い、この胸の痛みと感情を吐き出す様に…。
「―――…ふっ……あ……あ…っああああああ!!」
サリッサは泣き叫んだ。
この声があの子に届く事は無いのだと、分かっていても。


