(……一撃一撃が、凄く貴重なものになる…)
ミスは、許されない…確実に。ただ、確実に。
レトは短剣を握り直し、ゆっくりとこちらに歩み寄って来る氷の壁に守られたユノをじっと見据えた。
それは、獲物を狙う狩人の鋭い目だった。…本気にならないと、駄目だ。
…僕は、狩人だ。
今までだって、たくさん人を殺してきた。狩人の掟の下では、それが当たり前の行いだったから。…でも今の僕は…彼に会ってからの僕は………以前の狩人じゃない気がする。
だから、躊躇いが生じる。なんだか、胸の奥が痛む。剣を捨てたくなる。
………こんなんじゃ、駄目なんだ。
僕は今、狩人にならなければ。
ユノを、敵と思わなければ。
痛い、痛い…と泣き喚く、心の叫び声が胸の内から滲み出てくるのを半ば強引に押さえ込むと、レトは深く息を吸った。
魔術が相手では、まともに当たっても勝ち目は無いだろう。
…戦術を練る前に、隙を見付けなければいけない。
あの薄い氷の壁の強度や、魔術の強さや速さ、どれほど危険なのか。死角があればそこを中心に攻めていけばいいが、あの守りに果たして死角などあるのだろうか。
安全と思える適度な距離を保ちつつ、慎重に、しかし確実に攻めを続けていくしかない。
少しずつだが縮まっていく距離を、危険を承知で自分から詰めようとレトは身構えた…その時だった。
「―――ユノっ…!!」
緩みなど存在しない、ピシリと張り詰めた二人の間に、その人は危険を顧みずに入ってきた。
予想だにしていなかった彼女の乱入に、レトは思わず息を止めた。
「……サリッサさん!?」
現れた我が子の異質な姿を前にして、サリッサの身体は本能的に動いていた。
ノアはユノに走り寄る彼女を引き戻そうとしたが、突如床から突き出た氷柱がその手を阻んだ。
細かな氷の鋭いつぶてがかまいたちの様に皮膚を掠め、濃い魔力の淀んだ空気が酷い頭痛と目眩を招いたが、そんなもの構うものかと振り払い、サリッサはユノの正面にまで来るとそこで崩れ落ちた。


