冷たく薄暗い広々とした謁見の間。
濃い闇に塗れてそんな二人の姿を始終ずっと眺めていたアルバスは…不意に、まだ幼さの残る綺麗な瞳を廊下の奥へと広がる漆黒に素早く向けた。
…蠢く闇をじっと見詰めるアルバスに次いで、レトとノアも同様に謁見の間の外に意識を集中する。
…周りの異様な緊張感に、未だ涙を浮かばせたサリッサは小首を傾げる。
ただ、それがいい予感でないことは確かで、サリッサは無言で横たわるドールの傍らに寄った。
…廊下に注いだ視線はそのままで、レトとノアは小声で言葉を交わす。
「―――いらっしゃった様です。……予想以上に、早い…」
「…ねぇ、ノア………………僕、あの子に勝てるかな…?」
「………貴方のその怪我と体力を考えますと………失礼を承知で申し上げますが……勝率は、極めて低いでしょう。…それと、私の加勢はあまり期待しないで下さい。…彼の魔力と私の魔力は、互いに白と黒。相性が最悪です。…つまり貴方の取るべき戦闘体勢は…」
…ピシリ、と周囲の空気が軋む様な音が聞こえたかと思うと、直後、ノアの微笑がこちらに振り向き。
「とにかく逃亡、です」
―――刹那。
視界の隅々までが、目も眩む程の青白い光で覆われた。
突き刺す様な鋭利な光の来訪を合図に、レトは空気を読んでくれない不親切な全身に走る鈍痛を根気で堪え、その場で大きく跳躍した。
光から逃れる様に跳び下がったレトは、今は使い物にならない左腕を庇う様に宙で身体を捻り、動く右腕で短剣の一本を鞘から抜くと、室内の壁一面を覆う厚い氷の層に思い切り刺し、そのまま宙ぶらりの状態で張り付いた。
瞬く光の中。自分がいる場所とは反対側に、ノアの姿を一瞬捉えた。
その両腕には、サリッサとドールの姿も見受けられた。
あの二人は、ノアに任せておいて一先ず安心だろう。
この謁見の間は広い空間だが、それでも限られた空間である。危険は常に背中合わせだ。


