始終二人の会話を黙って見守っていたノアが、不意に口を開き、レトの視線に合わせる様に長身を屈めてきた。
ぼんやりとしたレトの半開きの両目の先には、美しい模様が浮かぶエメラルドの瞳。
目と鼻の先にあるノアの顔を見詰めながら、間近で見るとやはり綺麗だなと、場違いな感想を抱いた。
「……無用…?」
「…無用で、当たり前です。…もうお忘れですか?……このノアめが…私が、ユノ王子に手を下すと申した事を。………貴方が手を汚す必要はありません」
…確かに大広間で最後に別れる直前、ノアはそんな事を言っていた。
…この城を守る守人として、自分は責務を果たさねばならないのだから。
覚悟を決めて言った言葉に、二言は無い。
…だがそれに反し、レトはゆっくりと首を左右に振った。
小さな緩い拒絶を表すレトに、ノアは微かに眉をひそめた。
「………ノアは、駄目…」
「…駄目も何もありません。…貴方、自分で今おっしゃったではありませんか…。…ユノ王子は大切なのだと。………大切に思っている貴方が、する必要はありません。………貴方にさせる訳には…」
「―――だったら尚更、ノアは、駄目」
言うや否や、レトは波紋の様に床に広がる緑の長髪の一房をおもむろに引っ張り、両手で目の前のノアの顔を挟んだ。
一瞬、驚いて目を見開いたノアを鼻先が掠めそうな距離で見詰めながら、レトは再び「…駄目」と囁いた。
「………ノアは、駄目。……ノアは…ずっと、ずっと前から…王族の、ユノの古い家族の人達に…仕えていたんでしょう?…ずっと前から、王様の魔の者だったんでしょう?………ノアは…王様が大好きなんだよね…王族の人達が、大好きだったんでしょ…?……そんな大好きな人達と同じ王族の…王子様のユノを………ノアは殺せないよ」
…眼前のエメラルドの瞳が、大きく揺らいだのが分かった。
唖然とした表情で微動だにしないノアに、レトは悲しげに小さな声を漏らす。
「―――…無理、しちゃ駄目だよ…ノア」


