亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

―――…この少年は。

この小さな男の子は。



私の子供を、殺すと言う。


私の、掛け替えの無い宝物を壊すと、私に言っている。




…そんな…馬鹿な事があってなるものか。
理不尽な神に捨てられ、全てに裏切られ、そして邪魔だと言わんばかりに刃を向けられて。


そんなこと、私は、許さない。

許さない。

許せない。

許すなんて、有り得ない。





あの子の目指していた、夢見ていた未来が、目の前の少年にそっくりそのまま委ねられていく。

何故、この子なのかしら。
この子がいなければ、あの子は輝く事が出来ただろうか。

そうだ……この子さえいなければ。

この子さえ、いなくなれば。


………人殺しなんて、やった事がない。やろうとも思った事がない。
だけど、今私は、あの子のためにやらなければならない。
きっと、簡単だ。直ぐに終わる。
簡単。とても簡単。

沸き上がるこの感情を、憎悪に変えてしまえば。

とても、簡単。







簡単な、筈なのに。























「―――……ど…うして……貴方…な…の…」


―――カラン…と、一本の鈍い光沢が、冷たい大理石に音を立てて落ちた。
軽く跳ねたそれは、肩を震わせながら咽び泣くサリッサの傍らに転がり、月明かりから逃れる様に暗がりに滑り込んだ。

突き付けられていた敵意の刃は、もうそこには無かった。



簡単な、筈なのに。

この少年は、我が子を亡き者にしようとする、子供の姿をした悪魔なのに。









私はこの子に、憎しみを抱けない。
ちっとも、抱けない。

そんな悲しい事を言う、彼の不器用な微笑が、私は…可哀相で仕方ない。








世界を憎む事は出来ても。

この子は、憎む事が出来ない。












本当に何故……貴方なのかしら。

貴方でないと、いけないのかしら。

















「―――無用です、レトバルディア」