亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「……彼が、貴方を追っています。空間を捩曲げながら進んでいる故、彼が現れるのも…直ぐでしょう…」

そう言って目をやった廊下の向こうに広がる暗闇は、螺旋状に大きく歪んでおり、最早上下の見分けが付かない程だった。

…何処に続いているのか分からない捩りの中を、このカーネリアンこと…成鳥したアルバスは、よくかい潜ってきたものだ。
レトを無事にここまで運んできたアルバスは、今はその大きな羽を閉じて大人しくレトを背後からじっと見詰めている。


…難を逃れる事は出来たが、この城は今、ユノ一人の魔力によって完全に支配されていると言っても過言ではない。この謁見の間の奥にある玉座も、今は厚い氷の壁に塞がれ、近付く事も出来ない状態だ。レトという役者が揃っていても、これでは王政復古は叶わない。
時間は、残り少ないというのに。

…何処に行こうが、安置も退路も何も無い。
城内にいる限り、ユノから逃れる事は出来ない。…もう、迎え撃つしか術は無い。
彼の狙いはただ一人。この小さな、狩人の少年だ。
二人の少年の、二人だけの鬼ごっこ。
…鬼に捕まるか、鬼を討つか。どちらかの結果が出ぬ限り、終わらない。


「…負傷したのが利き腕でなかったのが幸いですが、それでは得意の弓を扱うのは無理でしょう……それに、いくら丈夫な狩人だからといっても…長時間この魔力にあてられていれば、体力などとうに…」

「……ノア…僕の事は、いいから。……それより、サリッサさんは大丈夫?…ドールも、大丈夫…?」

ノアの傍らでうずくまっているサリッサと、彼女の背後に横たわるドールの姿を見付けると、レトはよろよろと二人に歩み寄った。

サリッサのマントに包まれて眠るドールの前で膝を突き、心配そうな表情で彼女を覗き込む。
きちんと規則正しい息をしている事に安堵するものの、手足に刻まれた幾つもの痛々しい傷が目につく。

…自分を庇ってくれたがために、こんな大怪我をさせてしまって…。


「…………ごめん、ね…ドール…。………僕を、逃がしてくれて…ありがとう…」