亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「…あらまぁ…随分とまた立派なカーネリアンなことで」

謁見の間に突っ込む勢いで真っ直ぐ飛来してきたのは、艶のある銀の光沢を放つ、それはもう美しく若々しい怪鳥カーネリアンだった。
そしてその巨大な鳥の両足には、見慣れた少年の…最後に見た時よりも少々ボロボロになった姿があった。

吹雪を生み出す羽を羽ばたかせ、ステンドグラスに覆われた高い天井で一度くるりと旋回すると、カーネリアンはゆっくりと地上に降り立った。

地に着く直前、少年はカーネリアンから離れ、ふらついた危ない足取りでノア達の元に歩み寄った。赤い血の滲む、すっかり乾いた小さな唇が掠れた声を漏らす。



「………ノア…」

「………ご無事でなによりです、レト。…なんとか振り切って来られた様ですね……少々痛手を負っている様ですが…」

通常の倍の時間をかけて目の前にまで歩いてきたレトに、ノアは手を伸ばした。
華奢な指先が、埃と血で汚れた痛々しい左腕を優しく撫でる。
鋭い何かに貫かれたらしい左腕の傷は、だいぶ深い。血は止まってはいるものの、だいぶ流したのだろう…狩人特有の純白の衣服は、広範囲に至って赤く染まっていた。

応急処置を施したが、冷たい左腕は今は使い物にならない。




ここに来るまでの間、この少年に何があったのか。実際に見た訳ではないが、ノアには充分理解出来た。

彼の身にこびりついた魔力の痕跡が、それを物語っている。


それと同時に、ノアは確信した。






(―――なるほど。近付いてくるこの嫌な感覚は、ユノマリアンですか…)


少し、前からだ。
強大な力が城内の空間を震わせながら移動しているのを、ノアはヒシヒシと全身で感じていた。
極めて大きく、狂暴で、どす黒くて……殺意と怨念の塊の様な、嫌な力。

そしてそれは徐々に、この謁見の間に進路を合わせて近付いていた。
じわじわと、だが早い速度で。


………レトを、追っているのだ。
ならばこの近付いてくる力の元凶は、彼しかいない。




ここに、ユノがやって来る。
それは、もうじき。


猶予は、無い。