…平凡な女。取り柄の無い平凡な人間。
無力な女。何も、出来ない…。
出来ない……何も…。
出来ない、けれど。
何をしたって、意味が無いのかもしれないけれど。
「―――お願い、しま…す…!」
何もしない訳には、いかないの。
頭を下げる事しか出来ないのなら、頭を下げ続ける。
許しを請う事しか出来ないのなら、何度だって言葉を重ねる。
どんなに惨めでも、無意味でも。
それが、私に出来る事ならば。
あの子は、私が産んだ、私の子供だから。
「…お願いします…お願いします、お願いします、お願いします、お願い…し…ます……お…願い…お願い…だから……………………………殺さないで…ぇ……」
ノアの服の裾を握り締めたまま、冷たい大理石の床に額を付けて、サリッサは控えめな嗚咽を漏らして泣き喚いた。
それでもくぐもった泣き声は、静寂漂う謁見の間に波紋の如く響き渡った。
許しを請う言葉が繰り返されるのを、ノアは微動だにしない無表情で見下ろしていたが…瞬きをする度に、緑の瞳は悲しげな色を帯びていた。
この女は、理不尽な現実に悲しみと怒りを露わにして抗っている。
…だが、それと同時に、女は現実を受け止めるしかない事を分かっているのだ。
その涙は、言葉は、無力な己に向けられたもので…。
(―――聡明な、方…)
そして
なんて、可哀相な人。
現実を見る強さを持っているが故に、可哀相。
感情に身を任せてしまえばどれほど楽なのか、分かっている筈なのに。
物凄い速さで何処からかこちらに近付いてくる風の音色が、謁見の間に吹き渡った。
顔を覆ってひたすら泣き続けるサリッサを見詰めていたノアは、開け放たれた扉の向こうの、薄暗い廊下に目をやった。
それは風の音と言うよりも、風を切る音だ。
次第に大きくなる音色。まだまだ遠くに聞こえていた動く音源が、あっという間に距離を詰めてきたかと思うと…廊下の暗闇から、それは銀色の閃光となって飛来してきた。
無力な女。何も、出来ない…。
出来ない……何も…。
出来ない、けれど。
何をしたって、意味が無いのかもしれないけれど。
「―――お願い、しま…す…!」
何もしない訳には、いかないの。
頭を下げる事しか出来ないのなら、頭を下げ続ける。
許しを請う事しか出来ないのなら、何度だって言葉を重ねる。
どんなに惨めでも、無意味でも。
それが、私に出来る事ならば。
あの子は、私が産んだ、私の子供だから。
「…お願いします…お願いします、お願いします、お願いします、お願い…し…ます……お…願い…お願い…だから……………………………殺さないで…ぇ……」
ノアの服の裾を握り締めたまま、冷たい大理石の床に額を付けて、サリッサは控えめな嗚咽を漏らして泣き喚いた。
それでもくぐもった泣き声は、静寂漂う謁見の間に波紋の如く響き渡った。
許しを請う言葉が繰り返されるのを、ノアは微動だにしない無表情で見下ろしていたが…瞬きをする度に、緑の瞳は悲しげな色を帯びていた。
この女は、理不尽な現実に悲しみと怒りを露わにして抗っている。
…だが、それと同時に、女は現実を受け止めるしかない事を分かっているのだ。
その涙は、言葉は、無力な己に向けられたもので…。
(―――聡明な、方…)
そして
なんて、可哀相な人。
現実を見る強さを持っているが故に、可哀相。
感情に身を任せてしまえばどれほど楽なのか、分かっている筈なのに。
物凄い速さで何処からかこちらに近付いてくる風の音色が、謁見の間に吹き渡った。
顔を覆ってひたすら泣き続けるサリッサを見詰めていたノアは、開け放たれた扉の向こうの、薄暗い廊下に目をやった。
それは風の音と言うよりも、風を切る音だ。
次第に大きくなる音色。まだまだ遠くに聞こえていた動く音源が、あっという間に距離を詰めてきたかと思うと…廊下の暗闇から、それは銀色の閃光となって飛来してきた。


