亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


大罪同然の行為を、あの子が…ユノが、何かしたのか。
あの子の何が悪いの。
あの子は何もしていない。

何も。

なんで、殺…す…。




「―――これ以上の犠牲と、悲劇と……最悪の事態を、生まぬためです。………こうやっている間にも、多くの民や狩人が、愚かな神の我が儘のために犠牲となっております。そしてつい今しがたも私は、私の大事なものを亡くしました。………私は守人です、サリッサ。私には、この国を救う義務がある」

そう言ってただじっと見下ろしてくるエメラルドは、確かに美しい輝きを秘めているのに…ガラス玉の様な、何処か無機質な光の様だった。




…義務?…義務とは何?

あなたの抱える義務とやらに、どうしてあの子を巻き込まなければねらないのか。
義務だとか使命だとか…何処の誰が作ったのか分からない、最初からいつの間にか根付いているそんな定めとやらが…サリッサは、大嫌いだ。

そんなものに苦しめられてきたあの子を、ずっと見てきたから…。


「………あの子は、生まれながらに定めを抱えていました。あの子には、自由が無い…。…ただ王になりたい、王にならなければと…重荷である筈の定めを、全ての支えにして生きてきたんです…!………それさえも無くしてしまったあの子を………あなたは…っ…!!………こんな…理不尽な…!」


肩を小刻みに震わせて、サリッサは凍てついた目下の床を呆然と見下ろした。
生気を失ったかの様に血の気の無い、絶望にうちひしがれた女の姿が眼前にあった。認める訳にはいかない現実に怒り狂っている筈なのに、次第に込み上げてくる涙で歪み、何とも情けない泣き顔へと変わっていく。

私は結局、泣くことしか出来ないのか。


…私には、誰かを守る事の出来る力も無い。元々高い身分でも無い。我が子である筈のユノからの信頼も、恐らく無いに等しい。
ただの商人の娘で、職業柄少し手先が器用なだけで、でも人と接するのは不器用で、子供にも嫌われていて。

…私は、何も出来ない。