亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~










天井、大理石の床、ステンドグラスの窓、柱…と、至る所に厚い氷がへばり付いた、静かな空間に響き渡ったその言葉は、冗談にしては笑えないどころか…あまりにも、衝撃的過ぎて。



「―――……何…を、おっしゃられているのですか?」

目を見開いて硬直したサリッサの頭は、にわかには理解出来なかった。

弓張月の明かりが差し込む、ここ謁見の間は城内では比較的一番明るい場所だった。
薄暗い闇に溶けるように消えていく白い吐息の向こうで、美しいエメラルドの長髪と瞳を持ったシルエットは、再びサリッサに同じ言葉を重ねた。




「―――不本意ながら…ユノ王子の命を、絶たせていただきます」

理由も何もあったものではない突拍子で極めて理不尽な言葉を、このノアは実に淡白な物言いで断言したのだ。
…意味が、分からない。さらりと言ってのけられたそれを理解しようと試みるが、サリッサの自我が本能的に拒絶する。

内容が内容なだけに、二つ返事で受け入れる事など出来る筈も無い。
ついさっきまで何処かに放っていたらしい、自らの分身を本体に戻したノアがようやく口を開いたかと思えば…この魔の者は、とんでもない台詞を吐いたのだ。

わななく唇を薄く開き、サリッサは震える声を漏らした。


「………意味が、分かり、ません…。………何故…ですか…?………何て事を言うんですかっ…!」

目の前に佇むノアの足元に、サリッサは衝動的にしがみついた。
長く美しい緑の髪の一房を、力強く掴む。
冷淡なノアの瞳は、困惑と怒りに震える弱々しい彼女を、ただじっと見下ろすばかりだ。
何も答えてくれない緑の無機質な瞳に、サリッサは渦巻く感情を訴えた。


「……何故ですか?…あの子が次の王ではないからですか…?…でも…だからって………殺す必要など無いでしょう…!!」

ねぇ、そうでしょう?何故ですか?

震える声は、次第に悲痛な叫びへと変わっていった。自分が白い吐息と共に吐き出しているこの感情が、怒りなのか、悲しみなのか、もっと違うものなのか。

分からない。