「―――……あ…」
不意に何処かで、何かが途切れてしまった様な。
何かを、落としてしまった様な。
それが一体何なのかは分からないが……不意に心の内に訪れた、無機質な、しかし狂おしい程の喪失感に…思わず、両手で目を覆った。
蝋燭の仄明かりさえも差し込まない、手の平で覆われた真っ暗な視界。
ランプとインク壷、散乱する大量の羊皮紙を抱えた机を前に、顔を覆ったまま静かに後退り……ぶち当たった壁に背中を預けると、そのままズルズルと床に腰を下ろしてしまった。
…ふと気が付けば、両手の平に幾つもの生暖かい雫が、落ちていた。
気が付けば、それは自分の飾り同然の両目から流れ落ちているのだと、分かった。
込み上げてくる感情の波が、涙を増幅させる。
しゃくり上げる声を漏らすまいと、唇を噛み締める。
「―――…リルリル?」
独り、兵士や召使達の目を盗んで地下の資料室にやってきたルウナは、室内の暗がりにうずくまる人影を見付けた。
それが誰なのか、一目で分かるや否や、ルウナは心配そうな表情で駆け寄り、そっと覗き込んだ。
「…リルリル…泣いてるの?…何で泣いてりゅの?…どうしたの?……お腹が痛いの…?……ねぇ、どうしちゃの?…リルリル…?」
部屋の隅。人目を忍ぶ様に何故か静かに啜り泣いていたダリルに、ルウナは困惑しながらも問い掛け続けた。
だが、ダリルは涙の理由を答えてはくれない。
「何でもない」と言うばかりで、それ以上は何も語ってはくれない。
ただただ首を左右に振り、目元を両手で隠し続けるばかりだ。
しかし、耳を澄ませば微かだが…彼の繰り返される呟きが本の少しだけ聞こえるのだ。
ただ、一言だけ。
それが誰に向けられたものなのか、ルウナにはちっとも分からなかったけれど、彼から離れようとはしなかった。
ただただ、一言だけ。
“―――会いたかったのに”
それだけ、だった。


