…何処からか、自分の名を呼ぶ声が聞こえてくる。
悲痛なその呼び声は恐らく、イブやリストであろう。今あまり近付いては、ヨルン同様にイーオの力の影響を受けてしまう。
黒ずんだ視界の外から、自分を探しているのだろう。あの子達には、悪い事をしてしまった。
少女の淡い恋心を告げられた目の前のノアは、別段驚いた様子も見せず、ただ微笑んでいた。
やはり、何度見てもそれは綺麗だと思った。
「……フローラ………私は、性別はおろか…人間ではないのですよ?」
「………そんな…の………知って…いるに……決まって、いる、じゃ…ないの…。………私はね、ノア………あなたが、好きなの。……ノアっていう…ただ一人の…魔の者が………好きな、の。…………大好きなの…」
他の魔の者とは全然違う、ぺらぺらとおしゃべりな気分屋で。
陛下、陛下って…王の後ろをいつ何時でもついて回って。
大臣や召使に毎日ちょっかいを出して、悪戯ばかりして。人を怒らせるのが楽しいとか…ちょっと曲がった性格で。
こんな私に、身分の隔たりも無く接してくれて。
私を、フローラと可愛い名前で呼んでくれて。
とても、優しくて。
歩けない私を、ダンスに誘ってくれて。
お城の中庭の真ん中。
優しい水飛沫が跳ねる噴水の周りで、宙に浮きながら私の手を取って二人で踊ったのを。
…私は、ずっと覚えていたの。
「…あなた…に、看取られ…て…もらえ、て……嬉しい…。最後、に…伝える、事、が…出来て……良かっ、たわ…」
「………フローラ」
目を閉じれば、今まで忘れていた昔の光景が、走馬灯の様にゆっくりと駆け巡っていった。
自分の能力をもってしても、結局その不可解な病を治す事が出来ずに救えなかった陛下の顔や、遊んでくれた王子の呼び声、気味が悪い筈のこんな自分を頼ってくれた、村の人々。
全部が、私の目の前で流れていく。
目を閉じたまま開こうとしない私に、フローラ…と、ノアの声が下りてくる。
あら、もしかしたら、泣いているのかしら。


